とちのきアートプロジェクト |
イギリスの作家オスカー・ワイルドは、「〈自然〉とはぼくらを産んでくれた大いなる母なのではなく、ぼくらが創ったものだ。それが生命を得て蘇るのは、ぼくらの脳の中でなのだ。ぼくらが見るからこそものがあるのであり、ぼくらの見えるものやその見方は、ぼくらに影響を与えてくれた『芸術』に負っているんだ」という言葉を残しています。「とちのき村」のような自然豊かな施設で中心に行われる野外教育では、自然は良いものと考え、子どもたちを自然に誘います。ワイルドの言葉を前提に考えれば、子どもたちも私たちが感じているように自然の価値を感じているのでしょうか。
私たちはワイルドのいう「芸術」にあたる何かを次世代を担う子どもたちに示す必要性を感じています。また、その何かは本物であるべきだとも考えています。また、ワイルドは、「誰も気づかなかったものにさえも、直感的に『意匠』を見出しその『美』を発見するのが、非凡な感受性に恵まれた芸術家なのである。」ともいっています。私たちは、その非凡な感受性をもったアーティストが創り出した作品との出会いが、子どもたちだけではなく、私たちの自然の見方に影響を与えてくれると考えています。
私たちが学びの舞台とする「とちのき村」の自然は本物です。だから、その自然と釣り合う何かは本物でなくてはなりません。アーティストを招いてアーティストと空間をつくる。そんな本物との出会いの場が必要だと考え、とちのきアートプロジェクトは始動しました。野外教育をはじめとする自然体験は、昨今のデジタルメディアを通じたバーチャルな体験からみれば、当然、リアルな体験といえますが、私たちの日常は豊かな自然から遠ざかり、リアルではありつつも非日常的なものとなっています。
一方、昨今の著しいデジタル技術の発展によってバーチャルな体験が日常的なものとなっています。私たちは、この交差点にデジタルメディアの存在があると考えています。本施設を訪れる中心層は子どもたちですが、現代の彼らはデジタルネイティブになりつつあります。そのため、デジタルメディアを通した自然での直接体験は彼らにはより身近に、より有効に働きかけるのではないかと考えています。前述のアーティストとの場づくりに加えて、デジタルメディアを通じたさまざまな表現の場づくりに力を注ぐことも、とちのきアートプロジェクトが始動した理由のひとつです。
とちのきアートプロジェクトを通じて、アーティストのみなさんに「とちのき村」に滞在していただき、その自然から受け取った何かを表現した作品やその思いを「とちのき村」を訪れる人々に受け取っていただく機会、そしてこれからのデジタルネイティブの時代における新たな自然体験の方法のひとつの提案となれば幸いです。
文責 : とちのきアートプロジェクトプロデューサー 甲斐知彦
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